野球肘とは:疑う症状、分類、治療法、具体的な予防法について現役整形外科医師が解説します

2023年WBCでは日本の優勝が優勝し大きな話題になりました。メジャーリーグでは、大谷選手をはじめとする日本人選手の活躍で野球を志すこどもの増加が期待されています。

小さい頃から野球に取り込むことも一般的となる一方で、こどもの骨はまだ弱く、傷つきやすいため、知らないうちに野球肘になり重症化してしまうお子さんもいらっしゃいます。野球肘を早期から発見し治療につながる情報をお伝えします。

目次

野球肘とは

投球動作を繰り返すことでおきる肘関節の障害の総称で、多くが10歳代の成長期に発症

原因

  • 小・中学生に多くみられる
  • 野球のほか、ソフトボール、テニス、バレーボールでもおきる
  • 投球する時に、内側が引っ張られ(牽引)、外側が押さつぶされる(圧迫)力が加わる
  • 大きく肘の内側、外側、後側の障害に分かれる
年齢

骨が成長している時期(成長期)は、骨は弱く、怪我をしやすい

肘の骨の成長期が止まる年齢の平均は15歳であり、それまでは骨が傷みやすい

小中学生野球選手のうち、野球肘の割合は2割にものぼる →出典

小・中学生野球選手のうち、野球肘は2割

スポーツの種類

野球だけでなく、肘に強い負担がかかるスポーツでもなります

例)ソフトボール、やり投げ、テニスなどのラケットスポーツ、バレーなどのオーバーヘッドスポーツ

バレーやテニスでも野球肘になり得ます

注)一般的に、テニス肘は外側上顆炎のことを指します

肘への負担の部位

投球する際に、肘の内側は開く方向にひっぱられる力が加わり、外側は閉じる方向に圧迫する力が加わります

分類

傷めた部位から大きく、内側型、外側型、後方型に分類されます

分類

  • 内側型:内側上顆障害/内側上顆裂離骨折、内側側副靭帯断裂
  • 外側型:多くが上腕骨小頭離断性骨軟骨炎
  • 後方型:肘頭骨端線閉鎖不全、肘頭疲労骨折
内側型

内側上顆障害とは、肘の内側の骨にある軟骨が障害される状態。徐々に進行していくのが特徴で、投球した後に数時間で治っていたのが、段々と治らなくなってきます

内側上顆裂離骨折とは、骨が薄く剥がれるように骨折すること。急に痛みが出ることが特徴的。

内側側副靭帯損傷は、肘の内側の靭帯の損傷。骨の成長が止まった後である高校生以上でおきることが多いです

内側上顆障害は頻度が多く、徐々に進行することが特徴

外側型

上腕骨小頭離断性骨軟骨炎とは、肘の外側の骨や軟骨が当たって傷つき、そのうち骨が離れてしまう(遊離体といいます)病気です。10歳前後に多くみられます。

上腕骨小頭離断性骨軟骨炎は、重症化すると半年から1年も野球ができなくなる怖い病気

後方型

肘頭骨端線閉鎖不全とは、投球する際に肘の後方にひっぱられる力が加わり、成長期の弱い骨が離れてしまう病気です。成長期である小中学生に多くみられます。

肘頭疲労骨折とは、成長期をすぎた高校生以降でよくおきる病気です。肘の先端が繰り返すストレスにより骨折します。

スポーツをしている小中学生が肘の先端を痛がるようなら、肘頭骨端線閉鎖不全かもしれません

症状

  • 日常生活で痛むことは少ない 投球時や投球後に痛むことが大半
  • ボールがすっぽ抜ける、調子が悪いなどの痛み以外の症状のこともある
  • 上腕骨小頭離断性骨軟骨炎は初期症状がない
痛みが中心

症状の中心は投球時、投球後の痛み。

痛みの場所は、損傷部位によって異なり、肘の内側、外側、後側に大きく分かれる

肘の内側が6割、外側および後方が2割 →出典

肘の内側の痛みが多い、外側の痛みは要注意

それ以外の症状

ボールがすっぽ抜ける、調子が悪いなどのこともあり注意が必要

症状が進行すると肘の動きが悪くなることがある

上腕骨小頭離断性骨軟骨炎

初期には症状がなく、進行すると肘の外側の痛みや肘が伸びない、肘がひっかかるという症状がでる

重症化することがある上腕骨小頭離断性骨軟骨炎は、初期症状がない → 定期健診をうけるべき

治療

  • 内側上顆障害/内側上顆裂離骨折は保存療法が中心
  • 上腕骨小頭離断性骨軟骨炎は病期により治療法が異なる
  • 肘頭骨端線閉鎖不全、肘頭疲労骨折もまずは保存療法
内側上顆障害

保存療法で予後がよい。ギブスや装具固定をせず、投球の中止のみで治療

バッティング、走塁、捕球のみの守備練習は可能

2、3週間の投球中止で改善することが多い

内側上顆障害は予後が良い

内側上顆裂離骨折

ギブスや装具での肘関節固定が中心。骨折の転位が大きい場合には手術の適応となる。

上腕骨小頭離断性骨軟骨炎

初期と進行期では保存療法、終末期では手術療法の適応

初期と進行期

  • 損傷部位が修復されることを目標とする
  • 投球中止1−2ヶ月で疼痛改善することが多いが、まだ修復は不十分
  • 画像検査で修復を確認してから投球開始
  • 6−12ヶ月が目安

終末期

  • 症状がなければ保存療法
  • 痛み・可動域制限がある場合、肘が動かなくなるロッキングの場合には手術治療
  • 手術療法には、郭清術(狭い範囲)、骨軟骨柱移植術(広範囲)、骨軟骨片固定術(遊離骨片が大きい)
肘頭骨端線閉鎖不全

保存療法が中心

保存療法は、投球の禁止、投球フォームの改善

手術療法は、数ヶ月の保存療法で癒合傾向がない場合

手術方法 ワイヤーによる固定(tension band wiring)やスクリュー固定が一般的

まずは保存療法 数ヶ月で骨癒合がなければ手術療法

肘頭疲労骨折

成人期におきる。成人期の投球肘障害のうち5%とまれ

保存療法は、不全骨折の場合

手術療法は、完全骨折、保存療法で改善しない、スポーツ復帰を急ぐ場合

出典:古島弘三ほか:肘頭疲労骨折,MB Orthop 25(13)57-68,2012

予防法

原因としては、成長期のこどもにとって、スポーツでの肘の負荷が大きすぎること

  • 投球制限
  • ストレッチ
  • 野球肘健診の受診
投球制限
  • 小学生 1日50球以内、試合を含めて週200球以内
  • 中学生 1日70球以内、週350球以内
  • 高校生 1日100球以内、週500球以内
ストレッチ

肘の前方(曲がる方)、後方(伸びる方)を意識して、手首を十分に曲げる、伸ばすを十分に行う

野球肘健診の受診

特に上腕骨小頭離断性骨軟骨炎は初期症状がないため、発見が遅れがち

初期診断には超音波検査が有用

野球肘健診が一般的 出張野球肘健診やスポーツクリニックで受けることができる

初期症状がないこともあり野球肘健診が必須

野球肘検診は、出張で来てくれる場合やスポーツクリニックで受けることができる

以上、参考になれば嬉しいです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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